住まいに愛着をもつ住まい手とつくり手を取材する「WE LOVE THIS HOUSE」。
今回訪ねたのは、四国第二の高さを誇る剣山や大河・吉野川を有する、自然豊かな徳島県名西郡。この地で暮らすOさん家族(ご夫婦33歳・娘さん1歳)の住まいは、2022年春に完成した平家で、延床面積は108.84㎡。への字にカーブさせることで庭との接点を広くしたLDKには3つの窓があり、すぐそこには徳島の雄大な山の景色が広がります。
家が建つまでの道のりや、実際に暮らし始めた感想など、Oさん夫婦とともに家づくりに携わった『ダイゼン』代表の近藤正人さんも交えてお話を伺います。



ダイゼンの家づくりに欠かせない「木頭杉」が採れるのは、最も良好な水質として清流四国一に選ばれた「那賀川」の下流地域に接する山々。「道路が十分に整備されていなかった昭和30年頃までは、那賀川の流れを利用して木頭杉を運搬していました。その方法は、切り出した丸太を川に浮かべ、その上に人が立ち、竹竿1本で丸太を操作しながら川を下るという、非常に高度な技術を要するもの。現在では『木頭杉一本乗り大会』というイベントも毎年開催されています」と近藤さん。
すべてをあきらめない、
理想の家づくりの相棒に出会う
マイホームを建てるにあたり、まず何から始めましたか?
奥さん:はじめは右も左も全く分からなかったので、いろんな住宅会社さんのモデルハウスへ見学しに行ってみました。結果、13軒ぐらいの会社さんに話を聞きましたよ。
旦那さん:いろんな話を聞くうちに自分たちの理想の家も明確化していき、家づくりの知識も少しずつついてきたんです。いろいろ調べた結果、僕はパッシブデザインの必要性を感じていました。実家は比較的断熱性能の高い家でしたが、日射をきちんと遮蔽できていないせいで夏がとても暑くて...。そんな経験もあって、パッシブデザインは重要だなと。住んだあとの光熱費も安くなるし、なにより快適ですし、メリットしかないですよね。
奥さん:性能面を重視する夫に対して、私はデザイン性や素材選びにこだわった家に住みたくて。2人ともが納得できる住宅会社さんがなかなか見つからなかったのですが、一生住む家なので妥協はしたくなくて。1年半ぐらいかけて、ようやく出会えたのが高性能×自然素材にこだわって家づくりをするダイゼンさんでした。

家づくりの思い出を振り返る、Oさん家族と近藤さん。
ダイゼンではどんな想いで家づくりをしていますか?
近藤さん:『家族が安心して安全に暮らせる』、『小さなエネルギーで快適に暮らす』、この2つを軸に家づくりをしています。
私自身、娘のアトピーでとても苦労したんです。娘は入院を繰り返すほど症状が深刻で…。食べるものや身にまとうものと同じように、害の疑いのない家で快適に子育てをしたいと思い、住宅も見直そうと理想の家を建ててくれる住宅会社さんを探してみたのですが、当時近辺には全くなくて。ないなら自分で作るしかないと思い、ダイゼンを始めたんです。あの頃の娘を思う気持ちと同じ熱量で、お客さまが安心して暮らせる住まいを作りたいと今も思っています。


リビングの床は無垢のナラ材で、壁は殺菌作用があり、ウイルスを不活性化させるパワーを持った柿渋入りの珪藻土。自然素材に囲まれながら、娘さんものびのび遊ぶ。
Oさん夫婦はダイゼンのモデルルームに訪ねたとき、どんな印象を受けましたか?
旦那さん:新築特有の臭いがなく、木の香りしかしないことに衝撃を受けました。壁はビニールクロスを使わずに珪藻土の塗り壁、天井は紙クロス、床材は無垢床が標準という素晴らしいこだわりでした。
奥さん:私の実家は土壁や漆喰のある古民家に近い家なのですが、ダイゼンさんのモデルルームには同じような心地よさを感じました。無垢の木の床は本当に気持ちがよくて、我が家も無垢床を入れてもらったのですが、普段は裸足で生活していることが多いです。



植栽がよく映える、真っ白な壁と天然木が印象的な外観。白い外壁には、撥水性が高く汚れにくい塗り壁材『Sto』を採用。撥水効果が約20年持続する素材で、メンテナンスコストを抑えた。 仕上がり見事なウッドデッキは旦那さんがDIYで製作したもの。「我が家は壁が真っ直ぐではないので、少し角度をつけるのが難しかったです」
自然素材との真摯な向き合い方
家づくりのやりとりを重ねるなかで、特に心に残っている出来事を教えてください。
奥さん:シンプルなリビングになにかアクセントとなる素材をプラスしたくて、壁材に大谷石を取り入れたいと相談しました。ダイゼンさんとしては初めて扱う素材ということで、普通は敬遠すると思うのですが、数週間後には栃木県の採石場まで見学に行ってくださって、大谷石でできたコースターとオブジェのお土産までいただきました。フットワークの軽さと新しいことへの挑戦を厭わない姿に信頼ができると思いましたね。
近藤さん:僕自身、大谷石がどんなものかよく知らなかったので、まずは産地へ足を運んだんです。行くまでは重たい石を壁に貼るのはどうなのだろうと若干不安もあったのですが、大谷石は案外軽量の石で、採掘場へ行く道中には大谷石を外壁に使っているお家もたくさん見かけて、これならできると確信が持てました。『こういう使い方もできるんだ』、『こうやって採掘されているんだ』など、産地に行くことで得られることはたくさんあるんですよね。



LDKに接する植栽スペースを確保しながら、日射取得・日射遮蔽の効果を高めるへの字の平家に。メインの壁面には、大谷石を採用した。「最初は青みがかった色でしたが、時間の経過とともに茶色く味わい深く育ってきました。夜には間接照明に照らされて、また違った表情を楽しめます。また、大谷石には“ミソ”と呼ばれる、小さな穴がポツポツ空いているのですが、娘はここに指を入れるのが大好きです(笑)」と奥さん。
自然素材へのこだわりから、地元産の杉材を使った家づくりも始めたそうですね!
近藤さん:ウッドショックで木が手に入りにくくなった頃、ご縁があって徳島県南部の山の一角をいただけることになり、そこから木を調達することにしたんです。豊富な降水量と温暖な気候のおかげで良い杉がたくさん生える地域で、徳島県のブランド木材「木頭杉」とも呼ばれています。暖かみのある赤みの強い杉で、耐久性と強度性に優れており、シロアリにも強いことが実証されているんです。この木頭杉を用いて今まで10棟のお家が建ち、Oさん宅にも柱材として使わせてもらっています。
地元の木材を使って家づくりを行うことはどんなメリットがあるのでしょうか?
近藤さん:自社で川上から川下まで携わることで、余計なコストがかからず、費用を抑えることができます。良い木材をリーズナブルにお客さまへ届けられるということですね。ただ、木は急な斜面に生えていることも多く、切り出すのは大変な作業。人件費もかなりかかる上に、今は木の切り手自体が減っているという課題もあるんです。それでも木を伐採して、それで家を建て、また山に木を植え、森を育てる。この地道な繰り返しが、やがて山を守ることや林業・地域の活性化、国産材の安定した入手、そして徳島県産の木の家の良さを伝えることにつながっていると信じています。



自社の山で伐採した木は、まず山の近くの製材所で製材してもらい、その後、木材本来の強度を維持するために低温の乾燥処理を施し、自社の工場にある「モルダー」と呼ばれる機械で木材の厚さや幅を一定に調整。その後、用途に合わせてプレカットをし、ようやく建材として使うことができる。
自然を日常に取り入れた、
贅沢な平家の広々リビング
マイホームのテーマを教えてください。
旦那さん:『広いリビングと、自然素材と植栽が活きる平屋』です。夫婦ともにリハビリ関係の仕事をしていて、年配の方と関わる機会も多いのですが、歳を取ると2階を使わないという話をよく聞いていたので平屋にしようと決めました。
リビング、とても広々していて気持ちのいい空間ですね。
旦那さん:LDKで33畳あります。リビングで過ごす時間が圧倒的に長いだろうと思い、一番長く過ごすところに力を入れました。子どもが端から端まで走り回っているところを見ると、間違っていなかったなと心から思います。
奥さん:リビングには窓が3つあるのですが、そこから見える山の景色も大好きなんです。私はキャンプが趣味だったり、自然に触れることが好きなので、この景色を日常に感じられるのはとても贅沢だなと満足しています。
旦那さん:あと、リビングから庭に植えたヤマコウバシという木を眺めて過ごす時間もいいですよ。秋に紅葉するのがとても綺麗で。なかなか散らずに見頃が長いのもうれしいです。



窓が大きく開放感溢れるLDK。外には旦那さんお気に入りのヤマコウバシも生える。
リビングについて近藤さんから提案したことはありましたか?
近藤さん:部屋全体に間接照明をつけることを提案させてもらいました。全体に付けることで間接照明ですが暗い印象はなく、落ち着いた雰囲気を演出できると思いました。
旦那さん:明るい光があまり得意ではなく、この間接照明はとても気に入っています。両方つけるとけっこう明るいので、食事をするときだけ両方つけて、普段は半分だけつけています。調光できる仕様で寝る前に薄暗くすると、寝つきも良くなりました。
魔法瓶のような住まいが叶える、
家族の健康と安心
このマイホームに住み始めて、日々のライフスタイルにはどんな変化がありましたか?
旦那さん:いつでも心地のいい室温に保たれているためか、睡眠の質が上がりました。友人の赤ちゃんが我が家に遊びにきたときは「自分の家より良く眠っている!」と驚かれたことも。職場が変わって起床時間が早くなりましたが、以前より目覚めは確実に良くなっています。
奥さん:冬場でも寒くないので羽毛布団を使わなくなりましたね。あと光熱費もアパート時代より1万円ほど安くなりました!
どのようにして快適な室温を保っているのでしょうか?
近藤さん:ダイゼンでは魔法瓶のような高気密・高断熱の家づくりを徹底しています。気密測定は1.0以下で高気密と言われていますが、ダイゼンが建てる家はC値0.5㎠/㎡以内を保証していて、Oさん宅は C値0.1㎠/㎡以内。気密が高まる施工方法を試行錯誤してきた結果だと思います。
さらに、床下エアコンも採用したり、排気と吸気を一か所に集めて、捨てる空気と入れてくる空気を熱交換素子の中で交差して熱と湿気を回収するなど、さまざまな工夫をしています。
旦那さん:窓の外には外部ブラインドも設置してもらいました。暑い夏は太陽の熱をしっかりと遮り、冬はたっぷりと取り込めます。気密と断熱がきちんとできているので、エアコンは家全体で10畳用1つで十分なんです。
奥さん:家の中にいると外の気温がまったくわからなくて、いつも温度計を見ながら服装を決めています(笑)。



キッチンの扉付き収納棚は来客があるときなど、サッと隠せるのが便利。キッチンの床は本物のタイルを使用。「タイルは冷たいイメージがありますが、床下をしっかり温めているので『クッションフロアですか?』と聞かれるほど温かいです」と奥さん。 リビング窓には外部ブラインドも設置。窓の外で遮熱するため、屋内に設置した一般的なブラインドよりも遮熱効果が抜群。空調管理がスムーズにできるため光熱費も抑えられる。
家族と自然と触れ合いながら、
小さな幸せを重ねて
日々の暮らしのなかで、好きな時間はどんなときですか?
奥さん:子どもと触れ合う時間が好きです。我が家は共働きでゆっくり過ごせるのは夜、お風呂に入れてから寝るまでの時間なのですが、家の中で追い掛けっこしたり、絵本を読んだり、家中を探検したり。この家だからこそできたかけがえのない時間だなと思います。
旦那さん:娘と外で遊ぶのも好きなんです。我が家には小さな畑もあるので、ときどき一緒に行って土いじりをすることも。身近に自然と触れ合って遊べる家にできたのはよかったなと思います。
10年後、20年後、30年後、これからの生活が楽しみですね!
旦那さん:木の手入れや畑作業を通じて自然と触れ合いながら、家族で季節ごとのイベントを楽しむ。そんな平凡で幸せな日々を送りたいです。将来、娘が大人になり、自分の家族を連れて帰省してくれる日が来たら、みんなで快適にゆったりと過ごしたい――それが広いリビングを希望した理由のひとつでもあります。思い描いた未来が現実になる日を、今から心待ちにしています!



「家づくりもひと段落したので、娘がもうちょっと大きくなったら、キャンプや旅行にも行きたいです!」と楽しみに語る、Oさん夫婦。
文:北居る奈
写真:佐々木孝憲
VOICE FROM HOMEBUILDER
僕にとって家づくりは“仕事”というより、“趣味”という方がしっくりきます。それぐらい楽しいことなんです。住む人の生活を考えながら、さまざまな提案をしていくと、イレギュラーなことがたくさん起こりますよね。そこで『できません』、『高くなります』とつっぱねてしまってはそれまでですが、どうにか期待に応えられるように思考錯誤することで、自分の見識が広がり、できることが増えていく。そんな楽しさが家づくりにはあるんです。私たちが楽しいと思えないと、きっとお客さまも楽しいとは思えない。多くの人にとって、家づくりは一生に一度のことだからこそ、楽しんでほしいし、良い家ができたと喜んでほしいです。自然素材をたくさん使った住宅で温熱環境をきちんと設計された住環境は格別。ぜひこの快適さを味わっていただきたいです。(ダイゼン 近藤 正人さん)
有限会社ダイゼン
1年中快適に暮らせる、
100%徳島県産の家づくりに挑戦
徳島県徳島市を拠点に、高性能な注文住宅を手がける住宅会社。『家族が安心して安全に暮らせる』、『小さなエネルギーで快適に暮らす』をテーマに、室内の寒暖差が少なく、自然素材をふんだんに使った住まいづくりを手掛ける。さらに、地元の山から木を切り家を建てる「地産地消プロジェクト」や、木材の強度や香りを生かした「低温乾燥技術」の採用、窓の外で日差しを遮る「屋外ブラインド」の活用など、独自の取り組みを通じて、小さなエネルギーで快適な住まいを追求している。



